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最高裁判所第三小法廷 平成元年(行ツ)97号 判決

鳥取県米子市米原五六四番地

上告人

高林興産株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

鳥取県米子市西町一八番地の二

被上告人

米子税務署長

武内良樹

右当事者間の広島高等裁判所松江支部平成元年(行コ)第一号法人税額等更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成元年六月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自の見解に立って又は原審で主張しなかった事由に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 坂上壽夫)

平成元年(行ツ)第九七号 上告人 高林興産株式会社)

上告人の上告理由

第一

1 法人税法第一三〇条第二項違反(更正理由記載不備)について

(イ) 上告人らに対する更正は別紙に○印で表示した事業年度(前々訴という、昭和五三事業年度までは更正の具体的理由は明示してあるが昭和五四事業年度、昭和五五事業年度には更正の具体的理由の記載がない)その後三年連続して高林興産株式会社だけに更正通知がきたが(別紙△印これを前訴という)これには更正の具体的理由は記載がない。数字の羅列のみである。同じく別紙に昭和五九事業年度分の更正通知が本訴として記載してあるがこれも高林興産株式会社のみに対してであり更正の具体的理由は記載されておらず数字の羅列のみである。

(ロ) 原審判決四枚目二行目から九行目までについて「繰越欠損金が如何なる理由で零とされているか等の根拠を具体的に知ることは極めて容易であるといわなければならない。」となっているがこれは唯単に法人税法第五七條二項の数字の説明にすぎない。どの程度から容易になるのか分からない。

(ハ) 法人税法第一三〇條二項の更正理由の附記は強行規程であり納税者が推知していようといまいと全く関係のないことである。

(ニ) 昭和五九事業年度という特定の事業年度に対する更正通知である以上その通知書自体から更正の具体的理由及び税額の分かるものでなくてはならない。具体的理由として前年度と同じく書く(多少の計算が要る)のに何程の手間がかかるであろうか。ない許りに上告人、被上告人、裁判所とも随分無駄な労力を費している。

(ホ) 一般に法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは処分者の判断の慎重合理性を担保してその恣意を抑制するとともに処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨に出したものであるからその記載を欠くにおいては処分自体の取消しを免れないものといわなければならないと判示した。これは最高裁昭和三八年五月三一日判決(民集一七巻四号六一七ページ)で以後のリーデイングケースとなった。同様のものとしては左記のものがある。

(a) 最高裁昭和三八年一二月二七日判決(民集一七巻一二号一八七一ページ)

(b) 最高裁昭和四七年三月三一日判決(民集二六巻二号三一九ページ)

(c) 最高裁昭和四七年一二月五日判決(民集二六巻一〇号一七九五ページ)

(d) 最高裁昭和五一年三月八日判決(民集三〇巻二号六四ページ)

(e) 最高裁昭和五四年四月一九日判決(民集三三巻三号三七九ページ)

2 昭和五五年三月一三日被上告人は法廷で更正通知で認めている債務保証料も寄付金に該当すると主張した。債務保証料は上告人が何れも資本金三百万円で土地、建物もなく金融の道がなく営業続行は不可能でこれに対しては、親会社が担保提供し且つ連帯保証人になってできる如くする。上告人らが親会社から受けている給付に対して負担金を反対給付として支払うという約束があり調査担当官もこれを債務保証料として認めたものである。これは最初の更正通知より四年もたっている。除斥期間も過ぎているからかかる主張はできない。又寄付金と債務保証料は同一性格のものではない。なぜ債務保証料が寄付金に該当するのか何の説明もない。又出来る筈もない。担保提供や親会社の連帯保証なしで何千万円の金が借りられると考えること自体経験則違反であるもっともらしい更正理由を掲げておき攻撃をうけるや自由自在に主張で変更できるなら税法は完全に不要となる。国民は課税庁に課税を一任しているわけではない。課税庁は取消権限をもっているから暇疵ある行為として寄付金の認定そのものを自ら進んで取消すべきである。

3 課税庁は青色申告法人の申告に対して課税したのだから課税が正しいとの立証責任は課税庁側にある。

第二 法人税法第一三〇條一項違反について

1 税務署長は内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は繰越欠損金額の更正をする場合にはその内国法人の帳簿書類を調査しその調査により当該課税標準又は欠損金額の計算に誤りがある場合に限りこれをすることができるとなっている。

2 税務調査に当たり調査官は共同訴訟人五社が親会社及び第二高林産業株式会社(子会社)に支払った負担金のみを調査し親会社が担保提供し連帯保証人となり取引各金融機関から又親会社自身から借入ている借入金については上告人らは何等調査をうけていない。税務署より直接上告人らの取引各金融機関及び信用保証協会に連絡し各上告人毎に集計して債務保証料を計算しているから上告人らの帳簿と合わない。なぜ反面調査のみに走ったのか分からない。上告人らのを調べて尚不明なら反面調査も己むを得ぬが兎に角一三〇條一項違反は確実である。一例をあげれば昭和四九事業年度の商業手形七百五万四千四百五三円は上告人高林機材株式会社の分としてあるが、これは上告人高林鉄道資材株式会社の分でありました。これを攻撃されるや回答の仕様がありませんから、第一の(2)にのべた如く債務保証料も寄付金に含まれるといい出した。更正理由で認めているものを四年(除斥期間は三年)も立って主張の変更だといい裁判所もたやすく認めてしまいました。上告人らは何れも資本金三百万円ですが土地、建物はなく親会社の保証がなければ到底存立し得ない。親会社からの重大なる給付であります。この給付を認めた被上告人の上席調査官宅野彊氏の昭和五四年九月二〇日の証言記録もあります。

第三 更正権の濫用について

1 別紙をみれば分かる通り上告人高林興産株式会社他四名に対して昭和五一年八月三一日附にて更正通知がきた更正の理由も皆同じであるが税額は各社毎に異なっているが昭和五三事業年度までは更正理由は記載されてそれ以後の各社事業年度分にたいしては本書第一にのべた如く更正の理由は書いてなく又別紙に○や△、本訴と記入したところ以外の空欄の部分には更正通知は来ていない。昭和四九事業年度より同一条件で出発したのに空欄部分の会社に更正通知がきていないのは更正権を放棄されたものと判断せざるを得ない。課税庁の恣意的行為であり合法性の原則に反する更正権の濫用である。

2 昭和六二年二月一四日広島高等裁判所松江支部における最終口頭弁論の席上控訴人の昭和六二年一月一三日附準備書面に対し「何も反論することはない」と陳述した事は控訴人の主張を認めたものである。つまり「攻撃防御の策がつきた」「参りました」ということである。控訴人は耳が遠いので「何も反論することはない」との事については裁判長から特に確言を得た。

3 右の準備書面(甲第一四号証)は「前々訴」及び「前訴」の主張を要約したものであるからこれに「何も反論することがない」というのは被控訴人自ら敗訴を自認したものである。しかるに被控訴人は昭和六二年七月三一日本件更正通知書を控訴人に交付した。これは明らかに更正権の濫用である。

4 広島高等裁判所松江支部の平成元年行コ第一号に対する控訴人の三月二〇日附準備書面に対して四月七日の法廷で何も陳述しなかった。控訴人の準備書面三月二〇日附四枚目裏最初の三行目までに記載した事はこれも課税庁の恣意であり更正権の濫用にあたる。これについては特に課税庁の釈明を求めると主張したが黙殺されてしまった。擬制自白となるものである。

別紙

更正通知書受領状況

平成元年3月15日調

〈省略〉

〈1〉 ○印は「前々訴」の事業年度を示し△印は「前訴」の事業年度を示す。何れも請求の基礎は同一である。

〈2〉 空欄は更生通知書が発行されていない事業年度である。

〈3〉 昭和49事業年度とは昭和48年6月1日から昭和49年5月31日までの事業年度である。

〈4〉 協同訴訟人5名は何れも昭和48年6月1日親会社高林産業株式会社から分離独立したものである。

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